2010年9月12日日曜日

ジュブナイルはどこに消えたのか?「軌道通信」

最近、
軌道通信 (ハヤカワ文庫SF)
ジョン バーンズ
早川書房
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を再読しました。

ストーリーは「13歳の少女を通して、地球と火星の間を往復するような軌道に配置された理想社会的な小惑星宇宙船?の中の生活を描いた話」ということになる。小惑星宇宙船の中にすむ人々は、協調性に優れていて、地上の人々のような争いや、いじめがほとんどない理想的な環境にいきているように見えるのだけれど(そこらへんが理想的空想的のよう)。だけれども、ひょんなことから少女の父親(精神科医)が告白する場面がある。

「わたし自信、深くかかわっているんだからね。おまえはニホンアメリカの完璧な社員だ。わたしたちはできるかぎりの条件づけをした。そしておまえは期待通りに育ってくれた。船を離れたいなんて思うことはぜったいない。おまえが価値があると思うものは、すべてここにあり、おまえが信じていることは、すべて船をスムーズに運営することにつながっている。わたしたちには、おまえをいい人とか、かしこい人とか、親切な人にすることはできないが、ここにいたいと思わせるようにすることはできる。たのしいと思うことはすべてチームワークから得られるように条件付けることはできるんだ」

ちゃんと理想社会を形成するための動機とその方法がSFの背景としてあることに脱帽。そしてブラック(笑)。なぜ、自分の子供にまで洗脳をしなければならないのかにも、ちゃんとした理由があることも少女本人に丁寧に説明する姿があった。その回答とは、要約すると「人類が生き残るためには、父さんたちは、どんな手段でも使う」というもの。理想社会の裏側に構築された論理はとても鋭利な論理でできあがっているということを少女の視点からうまく表現していると思った。

さて、余談ではりますが、この話のながれは、「星界の戦記」に似ているなぁと思う箇所が何カ所かあり。たとえば、地球環境を破壊し尽くしてしまった地上人のことを少女は友達と「ツチブタ」と言う表現で話したりしたりしますが、この表現は私は聞いたことがありません(ひょっとして英語表現?)で、星界の戦記でもこの表現が古語としてでてきているので、うーん、星界の作者がこの話が好きだったのかなぁと想像しております。

それにしても、こういうたぐいの子供の視点でのSFって最近みないなぁ。なんでなくなっちゃったんだろうなぁ。よい作品がたくさんあったのに残念です。

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